毒蜘蛛の巣

01

「ついに八谷だな。あいつら、結構ハードにやったんだろ?」
「ああ。そうらしいな。詳しくは、ビデオを見てのお楽しみ、だとよ」
「へぇ、そりゃ楽しみだ」

大きな液晶テレビの前のソファに、二人の男が腰掛けていた。部屋の電気はついておらず薄暗い。傾いた陽の光だけが二人を照らしていた。
二人とも若いとはいえないが、三十代前半ほどで、一人はスラックスにワイシャツ、一人はジャージに身を包んでいる。出で立ちだけ見ればおよそちぐはぐな二人だが、二人は楽しそうに談笑していた。

「そういえば、お前も今日八谷の授業をもったんだろう? どうだった?」
ジャージの男が尋ねた。それに対し、ワイシャツの男は、
「いつもどおりさ。何事もなかったように連立方程式を解いてたよ。いつもより笑顔は少ない気がしたが、友達と楽しそうに笑っていたぞ」
と答え、あの顔を見て、あいつらにエッチなことをされたなんて誰も想像しないぜ、と笑みを浮べながら続けた。
「ふふふ。健気だねえ。みんなにバレたら大変だもんなあ。俺の授業のときもそんな感じで、いつも通りサッカーをしてたな」
その言葉に、スラックスの男は目を細め、
「へぇ、サッカーねえ・・・、お前、それわざとだろ」
「ははっ、分かった?」
「分かるさ。あざといなあ」
「ふふっ、大好きなサッカーで全部忘れてもらおう、なんてね」
「お前、最低だな」
「うるせぇ」
ジャージの男はそういって笑うと、リモコンを操作し、目の前のテレビの電源を入れた。
「おっ、いよいよか」
「ああ。八谷くんの勇姿を見せてもらおうぜ」

ジャージの男がリモコンを操作すると、テレビ画面に乱れた映像が映り、叫び声や怒号が混じったような騒がしい音声が流れ始めた。

「おい、ビデオ撮ってんだ、ちゃんと映るようにしろよ」
全然映んないじゃん、とカメラを持つ人間の声が繰り返し聞こえる。
そして、しばらく騒々しい映像と音声が流れたあと、カメラの視界が開け、喚きながら暴れている少年が映し出された。少年はブレザーの制服姿で両腕を二人に掴まれており、同じ制服を着た周りの少年たちに、大人しくしろ、と小突き回されていた。
「やめろっ! なに撮ってんだよ! 離せっ!」
少年がカメラを見とめ、こちらを睨みつけた。カメラはそれに対してひるむことなく、むしろ楽しむようにその表情を画面いっぱいに映し出した。
整った顔立ちだが、まだあどけなさが残る顔。顔つきははっきりと男の子だと分かるが、すれ違えば心地よい芳香が漂ってきそうな爽やかな少年だった。
そんな少年がきゅーっと眉根を寄せ、目に怒りの光を宿らせ暴れている。
テレビの前の二人は、
「八谷もこんな顔をするんだな。これもまたカワイイぜ」
「ははっ。でも、この顔がグチャグチャの泣き顔に変わるんだろ? 見ものだなあ」
と嬉しそうに笑いあっていた。

「なあ、ツカサぁ、なんでこんなことになってるか分かる?」
カメラのズームは元に戻され、またその部屋全体を映し出す。ツカサと呼ばれた少年の隣には、ひときわ体格の大きな少年がカメラを意識するように立ち、暴れる少年のネクタイをクイクイと楽しそうに引いていた。
「お前ってさ、サッカー部の新キャプテンにも選ばれて、スポーツ万能だろ? それに、この前のテスト、何位だったけ? 確か、六位だったよなあ」
体格の大きな少年はそう言い、ツカサの顔を覗き込んだ。
「それがなんだっていうんだよ」
ツカサは不快感をあらわにして、相手を睨みつける。しかし、体格の大きな少年は嬉しそうに
「そうそう、その顔、その顔。『カッコイイー』、『カワイイー』、『ハチヤくーん』って女の子にも大人気。カンペキじゃん、お前」
と笑みを浮べながら、ツカサの柔らかそうな頬を指で突いた。
「それで、だ。そんなカンペキなツカサくんの弱点ってなにかなって考えたわけよ」
「・・・そ、そんなくだらないこと」
少しうろたえた表情を浮かべる。その反応を見て、体格の大きな少年は、ニヤリと笑った。そして、
「まあ、俺たちの予想では――」
ツカサの股間に手が伸びた。
「あぁっ、やめろっ!」
裏返った声を上げ、ツカサは腰を引いた。その反応に、周りの少年たちはドッと笑い出した。

「はははは。お前、この前の体育祭で並んだ”背の順”、前から二番目だったよなあ。それもじゃんけんで勝って」
「な・・・、どういう意味だよ・・・」
「あれれ? ツカサくん、勉強はよく出来るのに、そんなことも分からないのか?」
そう言って体格の大きな少年はニヤニヤと笑う。
「頭もいいスポーツマンのツカサくんは、ここもちゃーんと成長してるのかな、ってことだよ」